小説『宝島』を読んで…

2019.2.23

第160回直木賞を受賞した真藤順丈氏の『宝島(講談社刊)』。
ながいながい物語にも関わらず、息もつかせぬ展開で、手に取ってから一気に読み終えました。

物語は沖縄での地上戦を経験したウチナンチュウ(沖縄生まれ)の若者たちが様々な困難を乗り越え、米国の統治下にあった沖縄で葛藤と不安を抱えながら成長し、1972年の「沖縄返還」を迎えるまでが描かれています。

1972年に実質的な主権が日本政府に返還されるまで、沖縄の施政権は米国にありました。
沖縄に暮らす住民が日本本土へ渡るにはパスポートが必要で、沖縄以外に居住する者もパスポートがなければ沖縄へ入ることができませんでした。
通貨はもちろんのこと、沖縄独自の制度は多岐に渡り、当時から〝米軍基地の島〟を強いられてきた歴史があります。

物語に登場する若者たちは、米軍が管理する倉庫や敷地の侵入を繰り返し、彼らが呼ぶ〝戦果〟を盗んでは身内だけでなく、地元じゅうに配りまわります。

病んだおじいやおばあいれば包帯や医薬品を届けたし、指一本につき五十匹のハエにたかられる貧乏所帯には、食料はもちろん衣類や毛布や運動靴を運んでいった。

P8から引用

占領者でもある米軍の物資を盗む行為は当時、沖縄では珍しいことではなく、魚の漁に例えて「戦果アギヤー」とも呼ばれ、腕が良い漁師と同じく戦果を上げるほど地元民に愛され、尊敬も集めていました。
ただ、その行為は漁以上の危険が伴い、米軍による実弾で命を失う者も。

物語には沖縄全島を揺るがした実際の出来事も描かれています。
旧石川市の宮森小学校に通っていた児童11人を含む17名が亡くなった米軍機墜落事件、過剰拘禁に端を発した沖縄刑務所暴動、米兵によるひき逃げ事件、そして嘉手納基地を抱えるコザ市(現沖縄市)で発生したコザ暴動…。
この小説はフィクションですが、ときに事実を織り交ぜながら、沖縄の戦後史だけでなく、当時生きた人々の不満や憤り、喜びや願いなどの心情を伝えています。

作者である真藤順丈氏は直木賞受賞後のインタビューで「自分が書くことによって批判や違和感がでてきたら、矢面に立って議論の場に出ていこうと-。その覚悟を決めるまでに逡巡があった」と語っています。
沖縄出身でないヤマトンチュウが沖縄の血肉に触れる題材で小説を描くことに対し、葛藤を抱えながら自問自答を繰り返し、覚悟を決めて執筆した様子がわかります。
所々にユーモアがまぶされ、ファンタジー的要素が多い小説ですが、沖縄を考える一冊としてお薦めです。

小説『宝島』は沖縄県内の書店員が決める「第5回沖縄書店大賞」にノミネートされています。
2月末までに県内の書店で働く人たちによる2次投票が実施され、3月中旬に大賞が発表されるとのこと。
沖縄返還を知らない昭和後期世代、平成になってから沖縄で生まれ育った人は、同書をどのように読み、受け取るのか興味あります。

今月24日(いよいよ明日!)には同書の表紙裏カバーにも登場する普天間飛行場の代替施設として、政府が名護市辺野古に計画している米軍基地建設のための海面埋立てを問う県民投票が沖縄の全市町村で実施されます。
海面を埋め立てて造られる滑走路が普天間基地の代替になるならない、埋め立て工事の長期化などの問題を抱えるなかでの県民投票ですが、沖縄県に暮らす有権者の方はぜひ投票所を足を運び、物語の主人公のように自らの手で未来への〝戦果〟を得て欲しいと願っています。

そして示された沖縄の民意は、沖縄以外に暮らす私たちひとりひとりも無関係ではなく、この先も沖縄へ押し付けていい問題ではないと思っています。